【発行体IRへの提言】ファンダメンタルズ投資家は業績予想がしたい

皆様、FOMC明けの相場、お疲れ様でした。要領が良いので週末のうちに書きあげました。
KxShareの川合です。TwitterではさんまのIPOというハンネで活動しております。

新卒から運用会社やヘッジファンドで働き、昨年仲間と共に独立。KxShareでは主に日本株IPOクロスオーバー戦略ファンドの運用を担当しながら、IPO・IR支援等を行っております。ちなみに「ケーシェア」と読みます。「SixTONES」がixを読まずに「ストーンズ」なのと同じ理論でお願いします。
おかげさまで現在のところファンドのパフォーマンスは順調に推移しており、更なる規模拡大を目指して募集活動を継続しております。

スーパーマンのツクルバ(2978)IR担当重松さんの企画に乗っかり、「IR系アドベントカレンダー2022」にお邪魔させていただきます。
本ACでは、既に機関投資家=バイサイド関連のお話をするエントリーが複数ありました。IR AgentsさんはIR活動の社会的意義を総括的に論じ、グッドスピード松井さんはIR取材における機関投資家の質問内容について教えていただきました。証券会社=セルサイド目線でも、ガチモンのアナリスト伊藤さんからは取材や説明会に対する提言がなされましたし、1週間後にはなんと斎藤剛さんが控えています。
良い感じのエントリーにしないと、「このままだとお前バリュー無いけどどうする?」と四方から矢が飛んできそうです。

私も他の多くの投資家と同様、毎年万単位の適時開示を読んできました。その中で、決算説明資料を読むだけで興奮してきて翌日買いボタンの準備体操に入ってしまう事や、気になって即電話ヒアリングをしたり、IR取材のアポ依頼をさせていただいたりといった事もありました。一方で、資料を読んでも何も分からなくて銘柄ごとスルーしてしまうことや、インプリケーションがまるで無くて絶望すること、必要な情報が載っていなくて苦労することもありました。
このエントリーでは、全ファンダメンタルズ投資家を勝手に背負って、我々投資家がどんな情報を欲しているのか、IRの皆様へ提言させていただきたいと思います。

業績予想を作りたい

なぜ私たちが決算期になると未明まで適時開示を読んでいるか?
 ☛ 読んでない他の投資家を出し抜いてリターンをあげたいからです。

そのために何故開示を読むのか?
 ☛ 読んでない他の投資家より早く正確に業績予想を作りたいからです。

株式の投資判断における軸がどんどんと早まってくる中で、業績予想をベースに株価が形成されるようになった、と私は考えています。昔は投資判断といえばPBR、すなわち会社が『過去に積み上げてきた利益である純資産』に対しての現在の株価が用いられていました。それがPER、つまり『今期や来期の業績予想』に対する株価の倍率へと軸が早まりました。更に軸が早い人達の間では、受注や各種KPIなどといった、『将来の業績予想の変化』を左右する指標を見るのが当たり前になりました

私たちにとっては純資産では遅すぎるのは当然ながら、前期の利益でも遅すぎるし、今期の期初に発表された会社予想利益でも遅いのです。直近の決算短信で出た四半期実績でもギリギリ遅くて、私たちはその先の未来を見て評価しているのです。

インデックスを積み立てて資産形成している多くの人がこれを読んだら、狂ったファンドの人が変なことを言ってるなと感じるかもしれません。しかしこれが個別株投資の現場のリアルです。

ちゃんとした金融の言葉で説明すると、積み上がったバランスシートや今期の会社予想、直近四半期の実績等を前提として市場参加者が予想した『コンセンサスDCF』が、今回の開示内容を受けてどのように変化するかによって、株価は変動すると考えます。だからこそ私たちは日付が変わるまで開示を読み込み、誰よりも早くDCFを更新するのです。(DCFを実際に組まない人でも、頭の中ではDCFがどう変わるかを意識しているはずです)。

業績予想にこだわる理由

私たちは決して数字遊びや当てた外したのギャンブルをしている訳ではなく、会社に対する理解を元に緻密に業績予想、ひいてはDCFを積み上げていき、どれくらいの価値を生み出す会社なのかを考えています。定性的な会社理解と定量的な財務分析の両輪が伴って初めてまともなDCFが作れます。

投資家は業績予想が立てられない会社に投資したくありません。機関投資家、特に個別株の銘柄ピックを担当しているような例えば中小型アナリストやポートフォリオマネージャー、大きな運用チームのメンバー等なら、決算でミスした際に推奨の責任を問われるため尚更です。もちろん求める予想の粒度は人によってまちまちであり、ヘッジファンドや短期メインの個人投資家は四半期レベルでも精度を必要とするでしょうし、もっとどっしり構えられる長期の機関投資家や配当メインの個人投資家等なら1-2年のトレンドが当たれば十分と考えると思います。しかし、よほどどうしても買いたいという理由が無い限り、次の四半期のイメージを一切持たずに買う人はいません。1年で30%上がると思っていても、来週の決算で10%下がるリスクがあるなら今買いたい訳がありませんよね。このため、四半期も含めて予想材料を投資家に与えることが重要だと考えます。

投資にリスクはつきものです。しかし同じ銘柄に投資するのでも、その会社を良く知っている投資家の方が、良く知らない投資家と比べて不確実性が少なく、取っているリスクは小さいと言えます。同じ期待リターンで違うリスクの銘柄が2つあったとしたら、投資家は全員低リスクの方に投資します。「業績予想を作れる」会社というのは、それだけで不確実性が減って買いやすいのです。

(補足)業績予想してないという投資家さんへ

四半期予想もしてないしDCFどころか今期予想も作ってないよという方もいらっしゃることは勿論分かります。私もわざわざエクセルを作らないことは普通にあります。
例えば「ある新製品がバカ売れしているらしい」というニュースを見て、「単価何円で粗利が何%くらいだから、営業利益に何%以上はインパクトありそうだ」、という考え方は歯磨きくらい日常的に行っているのではないでしょうか。これも業績予想やDCF作成の1つだと捉えて貰えればと思います。この時に皆さんがやっているのは、現在の株価がDCF的に正しいことを前提に、今回のニュースによるインパクトの差分を計算することと同義です。
業績を百万円単位で当てる / 外すの行為だけを指している訳ではないことをご了承いただければと思います。

投資家が知りたいこと

では投資家に何の情報を提供すればいいのか?
 ☛ 全部です。

業績を予想することは簡単なことではありません。そもそもこの会社は何を誰にどれくらい売って / 提供しているのか、どういう時に伸びてどういうときに伸びないのか、お客さんの取り方は、リードタイムは、事業が属する市場は、市場成長の中でその会社がどれくらいの競争力を持っているか、それが今後も揺るぎないものか、などなど、数字以外の定性的な材料を知る必要があります。そこまで知って初めて、じゃあいまの事業環境ならこの会社はこれくらい増収できて、その場合コスト構造的にこれくらい増益出来て、コストはこれくらい増やしそうで、といった定量的な情報を順に考えていきます。再掲ですが、やはり定性的な会社理解と定量的な財務分析の両輪が伴って初めてまともなDCFが作れます。

IRをご担当されている方なら一度、自社の開示情報だけをベースに自社の業績予想を作ってみてはいかがでしょうか。もし答えを既に知ってしまっているなら、自社の競合や良く知っている会社において業績予想をしてみてください。自社の業績予想が全く見当もつかないなら、開示が足りないかもしれません。見当は付いたけど実績と大きく外したなら、開示しているKPIや会社計画の前提条件の提示が間違っているのかもしれません
かつて、「株価はいいとして業績予想くらいは当てようよ」という名言を残した方がいました。予想が当たるくらい会社のことを理解する努力をしましょうということで、いち投資家として胸に刻んでいきます。

投資家に買ってもらう / トレードしてもらうには

実際に投資家達に買ってもらう、または売ってもらうためにはどうすればいいでしょうか。先ほどまで書いてきた通り、株価はDCFの変化によって動きます。すなわち未来のどこかの業績が上がると思えば投資家は買いますし、下がると思えば売ります。業績予想/DCFが動くような『変化』の情報を提供することが、投資家を動かす方法だと考えます。

四半期実績の売上や利益がサプライズなら勿論株価は動きますが、それは開示した瞬間から素早く織り込まれてしまいます。一方で売上や利益にはまだ明確に出ていないけれども未来の予想が『変化』するかもしれないような情報は、織り込む期待値に幅が出てかつスピードも遅いため、投資家にとって非常に価値があります。投資家は自分が気付いた『変化』を元にDCFを修正し、「この変化はまだ他の人が気付いていない / 評価しきっていない」と考えるときに、割安だと感じて買うし、逆だと売るのです。特に『変化』のインパクトが大きく、寄与するタイミングが近未来(最長でも2~3年)であればあるほど多くの投資家が関心を持ちます。このDCFの修正合戦こそが流動性を引き起こすものなのです

例えば粗利変化、新製品、値上げ、シェア奪取、受注、採用数、設備投資によるキャパ増大、事業部再編、コスト見直し、経営体制変更、還元方針変更などが一例です。
IR資料では是非こういったDCFの変化をもたらすような情報提供を意識していただければと思います。

今回のACを始めとして、最近のIR活動の活発化は非常に良い流れだと思っています。中小型株の流動性を改善し、東証をより魅力的なものとすることで、日本経済を共に前に進めていきましょう。

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渡辺克真