台湾有事について、その背景と今後の予測

台湾有事について、その背景と今後の予測

皆様こんにちは。KxShare株式会社の大村です。
今回は、台湾有事とそのリスクについて書かせていただきました。台湾有事のリスクについて皆様が勘案する材料の一つになればと思います。

前回のインドの記事も是非ご覧ください。

2023年、インドが人口で世界1位に!インド時代の幕開けへ。その成長の秘密とは?

 

はじめに

現状において、台湾有事がいまいまで勃発する可能性は低いとされる。しかしながら、起きた際、日本ひいては世界に及ぼす影響は計り知れないほど大きい。また、ここ数年間において、絶対に起きないとも言い切ることはできない。中国の軍備拡張はすさまじいスピードであることに加え、ロシア・ウクライナ戦争などの世界情勢不安がある中で、何が台湾有事に繋がるトリガーになるか正確には分からないからである。したがって、現時点から、台湾有事に関する理解を深め、有事の際に起きうるリスクを勘案することは意義あることである。

そして、少しでも正確な理解を得るためには、歴史的観点と地理的観点、その両方をまずもっておさえておく必要がある。本コラムでは、台湾の歴史の概略に触れたうえで、そのリスクについて考え深めることが出来るものにしていきたい。

 

台湾有事の背景(台湾の地理と歴史)

台湾は、中国南東部沿岸から約160キロ離れた太平洋西部に位置し、日本から見ると琉球諸島の西方海上の位置である。日本で台湾に最も近い与那国島からは約110キロであり、海を介した日本の隣国の一つだ。また、台湾は日本人にとって親日国としても知られ、その理由は日本が台湾を統治していた1895年からの約50年間で台湾のインフラやダムなどを整備し、経済的発展を支えたからだと考えられる。

台湾の地理的条件

上記地図引用元:Total News World「トランプ政権が残した中国に対する圧力の功績、第3弾/米国務省 中国に台湾への圧力停止要求 前政権方針継続の姿勢」
URL: http://totalnewsjp.com/2021/01/24/trump-541/

次に、台湾の歴史的概略について日本統治時代から現代までを整理していこう。

1895年…日清戦争で敗れ、日清講和条約によって台湾は日本に割譲される。
1945年…太平洋戦争で日本が敗れたことにより、台湾が中華民国に復帰。
1947年…二・二八事件勃発
1977年…米中国交正常化の議論の過程で、米国が台湾への武器輸出継続を明言
 
※以降、米・中の台湾をめぐる刺激し合いが続き、米中が互いに刺激をしあう悪循環にある。
 
2011年…オバマ政権がアジアピボットを表明
2015年…中国が「中国製造2025」を発表
  オバマ大統領(当時)が、中国政府による企業へのサイバー攻撃を非難
2016年…李英文氏が台湾総統に就任。中国が軍事的威嚇を強め始める
2017年…習近平国家主席が党大会で21世紀半ばまでに「トップレベルの総合国力と国際的影響力を有する国になる」「世界一流軍隊を築き上げるよう努める」と発言
 
2018年…米国が中国に対し制裁関税を発動。以下を問題視。外国企業に情報開示を強要する、外国企業の自由な市場参入を制限する、中国企業に多額の補助金を支給する
2019年…新疆ウイグル自治区における人権侵害を理由に、米国が中国に対し制裁を発動
2020年…中国が香港国家安全維持法を施行。一国二制度が形骸化
 
2021年…米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)が米議会上院で「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言
  安倍首相が台湾で開かれたシンポジウムにて、中台関係について「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と発言
 
2022年…ポンペオ前国務長官(米)が「台湾を主権国家として承認すべきだ」と発言
  バイデン大統領が「台湾有事が起きたら米国が軍事的に関与するか」の問いに「イエス」と回答
  ペロシ米下院議長が台湾訪問→中国が台湾周辺海峡に向けて弾道ミサイルの発射
年表の出所:各報道を基に「日経ビジネス 総力編集 徹底予測2023」が作成したもの(32ページ掲載)を参考

年表の歴史からも自明である通り、台湾統一は中国だけの問題ではない。台湾有事は米中覇権争いの一局面ともとることができるのである。その点、アメリカは戦略的曖昧政策を掲げ台湾有事が勃発した際の対応を曖昧なものとすることで、中国の統一侵攻と台湾の独立その両方を抑制している。

 

台湾有事が再度注目を集めている理由

ではなぜ今、再度注目を集めているのだろうか。緊張感が一気に増したのは、ペロシ米下院議長が台湾を訪れてからである。この行動には是非それぞれの意見があるが、中国側がどのような考えでいるかによってその捉え方は変わってくる。中国側の台湾への捉え方を知ることができないため、否定も肯定もできない。ケース①もし、中国が台湾を攻めようという気が本当にあったならば、この行動は米国の台湾有事におけるスタンスを明確化し、中国抑止にも繋がるかもしれない。ケース②一方で、中国側に台湾侵攻の意志が現時点で薄かった場合、必要以上の挑発行為ともとられかねず、中国側も引くに引けない状態となり、結果として台湾有事のトリガーを引いてしまうかもしれない。

 ⇒ 参考記事:東洋経済オンライン「ペロシの台湾訪問が中国を『やりにくく』させた訳、軍事演習を正当化する口実を与えたのはマイナス」
 URL:https://toyokeizai.net/articles/-/622584

中国は「今世紀半ばまでに世界一流の軍隊をつくる」という目標を掲げて軍事力の増強を進め、中でも海軍強化に力を入れている。というのも、空母建造のペースが速いのである。中国は2012年1隻目の空母「遼寧」の就役、2019年2隻目の初めて国内で建造された「山東」に続き、そのわずか3年後の2022年6月17日、3隻目の空母である「福建」を進水させた。そして、この「福建」は驚くことに、最新鋭の電磁式カタパルトが搭載されている。しかしながら、動力は原子力ではなくディーゼルであると思われるため、膨大な電力が必要となる電磁式カタパルトが正常に動作するかは不明だ。「福建」は原子力空母ではないことから、単体で見た時に恐ろしいものではない。というのも、「ジェラルド・R・フォード」を筆頭とするアメリカの空母艦隊が世界最強であるからだ。

しかしながら、中国は空母を完成させる時間があまり早く、もうすでに4隻目の製造に取り掛かっていると考えて間違いないと考えられる。その進水時期については、2025年から27年の間と見込まれ、さらに、ついに4隻目では原子力空母の開発製造に成功するかもしれない。そうなれば、中国の海軍を軽視することは愚行であるといえよう。加えて、怖いのは空母だけではない。中国海軍の艦艇数は355隻と既にアメリカ海軍の297隻を上回る数を保有している。つまり、海上の世界最強はアメリカ海軍だが、世界最大の海軍は中国ということである。

以上から、なぜ台湾有事が今再注目されているかの理由は、①ペロシ米下院議長が台湾を訪れたことで米中の緊張が高まりを見せたこと②中国の軍備拡張がすさまじいスピードであること。さらに、③ロシア・ウクライナ戦争勃発によって侵略戦争が現代にいたっても現実になってしまうことが明らかになったという社会情勢不安などが挙げられる。もちろん、理由はこれだけではないが。

 

台湾有事はいつ起こるのか

本格的な武力攻撃による台湾有事がここ数年の間に起こるかについては専門家の中でも意見が分かれている。今回は、そのうちの、ジャーナリスト峯村健司氏の提唱する2024年説と、軍事アナリスト小川和久氏のここ数年のうちに台湾有事起こるということに否定的な見解の2つを紹介する。

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員であり、ジャーナリストの峯村健司氏は2024年には台湾有事の勃発の危険があると提言されている。理由となる筋書きはこうだ。同年1月の台湾総統選で民主進歩党の台湾独立派である頼清徳氏が当選し、バイデン政権が頼政権を支援する立場をとる。そして、1972年以来続けてきた戦略的曖昧政策を見直す。こうした動きを中国側が、台湾独立を支援するものとみなす可能性があるのである。加えて、習近平国家主席が中国共産党総書記として異例の3期目を手に入れることができた裏には、台湾統一の実現があり、この約束を守るには2028年がタイムリミットとなると言うのだ。

さらに、峯村氏の興味深い指摘は、台湾有事は軍事的な問題というよりも政治的な問題では?ということである。台湾有事で中国側に勝利するためには、少なくとも以下2つの条件が必須なのである。1つは、米国が台湾有事に参戦することである。2つ目は、日本にある米軍基地を日本が中国の脅しに負けることなく、使えるようにすることである。しかし、在中国の日本人を人質としてとられたり、核の照準を日本に合わせられたりしたとき、日本は本当に米軍基地を貸し出し、台湾有事に参戦することが出来るのだろうか。

 ⇒ 参考元:日経ビジネス 「台湾有事に備えよ! もし起こらば、そのとき日本は?」
 URL:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00530/

軍事アナリスト小川和久氏は台湾有事がここ数年では起きない理由として、まずもって台湾上陸の能力を中国軍が有していないことを指摘している。台湾に上陸侵攻して占領するためには、100万人規模の陸軍部隊を投入する必要があり、それだけの部隊を運ぶには、3000万~5000万トン規模の船腹量が必要となる。しかしながら、民間商船を全部かき集めてやっと6200万トンであり、経済活動が犠牲になってしまう。よって、中国は台湾侵攻に必要な兵員を輸送できるだけの能力がないと言うのだ。

さらに、もし台湾有事が起これば、台湾・日本・アメリカの三国が中国に対して経済制裁を科すのは必定であり、これは中国のGDPの約4.7%の低下を意味する。加えて、中国の集積回路(IC)の輸入において台湾製が35.9%を占めることから、これが入手できなくなれば、IT製品の生産・輸出にまでもダメージが及んでしまう。以上のことから、ここ数年間のうちに台湾有事が起こる可能性は低いとされている。

 ⇒ 参考元:文藝春秋digital 小川和久 「台湾有事は正しく恐れよ」
 URL:https://bungeishunju.com/n/n975b38a09c14

ICの輸入を台湾に頼っているのは、世界トップクラスの時価総額(60兆円超)を有する台湾企業TSMC「Taiwan Semiconductor Manufacturing Company」の存在があるからだ。中国だけでなく今や世界の主要メーカーがTSMCに依存せざるを得ない状況にある。というのも、TSMCはファウンドリ市場のシェア60%を保持し、価格決定力を握っている。さらに、単に供給力が優れているだけでなく、世界最高性のICチップ製造技術も有しているのである。

そして今、台湾有事を鑑みたTSMCの工場誘致がアメリカアリゾナ州と日本の熊本で両国それぞれの政府による手厚い支援のもとなされている。もちろんこれには、台湾有事だけでなく、昨今の半導体不足解消も大きな名目である。各国の半導体覇権争いも激化していきそうだ。

 ⇒ 参考元:NIHON POLYMER 「TSMCとはどんな企業?世界トップの半導体企業を紹介」
 URL:https://nihon-polymer.co.jp/2022/10/17/3639/
 ⇒ 参考元:日経ビジネス 「世界最強のTSMCも誘致、米国がアリゾナから狙う『半導体覇権』」
 URL:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00393/113000001/

 

台湾有事のリスク

戦争の時期については諸説あるにせよ台湾有事は、実質的な日・米・中の世界のGDPトップ3を巻き込んだ戦争になることがほぼ確実と予測される。そうなった場合、世界への影響は尋常ではないことは明らかである。さらには、中国および日本の隣国であり、アメリカとの合同演習も進める韓国までをも巻き込んだ戦争に発展していく可能性がある。

戦争とは不確実性の塊であり、正確な予想はできようがない。しかし確実なのは、その影響は台湾にとどまらず、日本も多大な被害を免れないということである。昨年12月に閣議決定された安保関連文書の1つである国家安全保障戦略でも中国の脅威が筆頭に挙げられ、最近まで話題になっている増税してまで防衛費増額に充てる理由の1つでもある。

 ⇒ 参考記事:Yahoo!ニュース AERA dot. 「増税してまで『防衛費増額』がなぜ必要なのか?台湾有事を想定した机上演習で見えた習近平政権の焦り」
 URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/6504e5eeae9ab799b1ed1c531852f40861baf539

アメリカの有力シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)が2023年1月9日、中国の台湾侵攻を想定した台湾有事のシミュレーション結果を公表した。そのシミュレーションでは2026年に台湾侵攻がなされた場合の24のシナリオの検証が行われ、そのうち22では中国は台湾制圧に失敗したが、米軍や自衛隊は多数の艦船や飛行機を失うなど大きな損失を出す結果となった。(米軍は原子力空母2隻、艦船7〜20隻、死傷者・行方不明者1万人、航空機168~484隻を失うと想定された。) 

この結果を中国側がどう見るか、もっと言えば、習近平国家主席は、今はまだ台湾侵攻を控えようと考えるのか、はたまた、アメリカがこれだけの損害を出すならば、台湾有事参戦への可能性が低いと見るか。どちらの捉え方をするかが、台湾有事勃発の1つ鍵となるだろう。

 ⇒ 参考元:JB press 「台湾有事シミュレーションの衝撃、日米中すべてがこうむる莫大な損失 日本の責務は全力で台湾有事を抑止すること」2023/1/27公開
 URL:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73633

 

おわりに

昨今のロシア・ウクライナ戦争を見ても分かる通り、戦争は正確な予測ができるものではない。偶発的な事象によって、大きく左右されるのであり、起こってみなくてはわかり得ないのである。しかし、だからこそ最悪の場合のリスクを鑑みることが必要である。特に、島国である台湾と日本の両国にとって、長期にわたって物流が完全に止まってしまうことは確実な死を意味する。そして、台湾は世界でトップのIC・半導体を持っており、現代のテクノロジーには欠かせないものである。ビジネスの分野に至っても台湾有事が大きく影響を及ぼす。

いかに台湾有事のリスクに備えていくか、日本の命運を懸けた戦後最大の決断が迫られるときである。台湾有事は絵空事でも、遥か遠い未来の話でもないのかもしれない。

 

上記以外の全体を通して参考にしたもの

・株式会社 日経BP「日経ビジネス 総力編集 徹底予測2023」2022/12/16発行・発売
・テレ東BIZ 【400万再生突破】“台湾戦争” 回避できるか・・・【総集編:豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス】
 URL:https://youtu.be/h6BZtV9YWhg
・ニッポン放送NEWS ONLINE 「米研究機関の台湾有事シミュレーションが描いた『日本にとって最悪のシナリオ』」2023/1/25公開
 URL:https://news.1242.com/article/413732

 
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