投信直販の日本とアメリカの違いはいかにして生まれたのか

投信直販の日本とアメリカの違いはいかにして生まれたのか

皆さんこんにちは!KxShareの大村です。前回のコラム「投信直販会社とは」は読んでいただけたでしょうか。読んでない方はぜひ。

投信直販会社とは?メリット、デメリットや代表的な会社、市場シェアについて解説

今回のコラムは、投信直販の日本とアメリカの違いです。前回お話したように、日本において公募型の投信直販会社は、残念ながらごくごく少数しかありません。しかしながら、アメリカにおいて投信直販は主流とはいかないまでも、投資の選択肢の1つには上がるような存在です。では一体、何が理由なのでしょうか。今回は、そんな背景にも触れながら、日本とアメリカの違いをみていきます。そして、その違いはどのようにして生まれたのかアメリカ側と日本側のそれぞれの視点で見ていこうと思います。また、そこから考察される日本への示唆、どうなることが理想なのかについてもこのコラムで明らかにしていきたいと思います。

 

日米の投資信託保有データを比較する

日本とアメリカ、家計金融資産の内訳

オリックス証券 「日米の家計を比較!アメリカが圧勝なのは、なぜ?」
URL:https://www.orixbank.co.jp/personal/investment/learn/column/special/20201027_5.html

まず、アメリカの投資信託の残高は日本に比べて桁違いに多いということをおさえておく必要があります。そのうえで、日本の投信直販は、1%にも満たないことは前回も述べた通りですが、アメリカの投信直販は14%と日本と比較すると高いシェアを誇っています。
いくつか資料を見て整理しましょう。

日本の投資信託販売チャネル比率

日本証券経済研究所 杉田浩治 平成23年5月18日
URL:https://www.jsri.or.jp/publish/topics/pdf/1105_01.pdf

アメリカの投資信託販売チャネル比率

日本証券経済研究所 杉田浩治「米国投信4分の3世紀の歴史から何を学ぶか」 平成27年1月19日
URL:https://www.toushin.or.jp/fileadmin/open/kouhou/file/statistics/paper/1501_01米国投信4分の3世紀の歴史から何を学ぶか.pdf

 

ではなぜ、アメリカの投資信託の直販の比率が日本よりも高いのか

大きく分けると3つほどあると考えます。
①投資の習慣基盤があったこと。
②アメリカの投資家はコスト意識が高く、それゆえに経費率が比較的低い投信直販に惹かれたこと。
③独立系運用会社が活躍できる環境だったこと。

それぞれについて詳しく見ていくことにしましょう。

①アメリカの投資習慣はいかにして形成されたのか。

アメリカの家計金融資産は1945年6080億ドルから2014年66兆7560億ドルまでに110 倍に拡大しました。この要因には、株式の好調が長期にわたって続いたことや職域型確定拠出年金401kの充実などによって、家計金融資産が増えたことが挙げられます。つまりこの間に、投資が一般の人々にとってより身近なものになったのだと考えられます。このようにして、アメリカにおける投資の習慣基盤は形成され、今や家計における株式・投資信託などの金融資産の比率は今や4割以上に達しており、名実ともにアメリカは投資大国なのです。

②アメリカの投資家のコスト意識

日米の規模の大きい公募投資信託のコストを比較した下記表によると、アメリカの投信は日本のものに比べて、一本当たりの販売手数料、信託報酬ともに低くなっています。また、その規模を見ていただければ分かる通り、アメリカの全体的な特徴として、低コストのファンドへの資金集中が進んでいるのです。

投資信託コストの日米比較

金融庁 説明資料 平成29年3月30日
URL:https://www.fsa.go.jp/singi/kakei/siryou/20170330/03.pdf

③独立系運用会社が活躍できる環境形成への概観

独立系運用会社の活躍を知るには、少しアメリカの投信直販の歴史や運用会社の規制を振り返る必要があります。

まず投信直販が本格的に開始された時期ですが、実は1970年代と日本よりも20年程早く、またその時期に株価の長期低迷(投信の実績不振)、投信販売手数料の引き下げ、株式売買委託手数料の自由化が行われ、証券会社がファンドから株式売買を受注するメリットが低減されてしまいました。これらの理由から、証券会社などの販売会社は、投資信託の販売を積極的に行わなくなってしまったのです。従って、独立系運用会社は、新規顧客を獲得するためには直接販売を開始せざるを得なかったというわけです。加えて、71年にノーロード型のMMFが開発されたことも重なり、1970年代に直接販売が飛躍的に伸びることに繋がりました。
(とはいえ、80年代に入ると、ファンド資産から販売費用を控除できるようになったり、株価が回復したりしたことをうけ、証券会社の投信販売がまた活発に行われるようになり、直販の比率は低下しました。しかし、1970年代に独立系運用会社が直販に踏み切ったことが今日に与える影響は大きいと考えられます。)

では、なぜ米国には独立系運用会社が多いのでしょうか。

 

米国の独立系運用会社が生まれる背景

考えられる要因の1つ目は、法令等の参入障壁の低さが挙げられます。アメリカの投資資産運用業に参入するための資本要件などは特に定められていません。さらに、参入できる形態に至っても会社だけでなく個人も登録をすることが出来ます。(一方で、日本の場合、資本要件が「資本金および純資産が5000万円以上」とされ、参入できる形態は株式会社とされている。)

投資資産運用業への参入規制

日本証券経済研究所 杉田浩治「投資信託の制度・実態の比較調査」2018年3月
URL:https://www.jsri.or.jp/publish/general/pdf/g26/g26.pdf

次に考えられる要因の2つめは、長期投資・顧客本位の販売によってファンド自体が育ちやすく、大きな金額を安定して運用することが出来たために、独立系でも十分存続できたのです。

長期間の視点での投資には、ゴールベースの投資運用によって顧客に真に寄り添っていたことが関係しています。ゴールベースとは、個人の将来の目標などを設定し、それを達成する方法で資産運用を活用するというものです。また、販売でもコミッション型でなく、フィー型のため無駄に投信の乗り換えや新商品の提案をせずに、顧客本位の営業が行われています。
(※コミッション型とは、取引が行わる都度、取引金額に対する一定割合、あるいは一定金額の手数料が徴収されるもの。フィー型とは、顧客からの預かり資産残高に対して年率数%の手数料を頂くというもの。)

以上の理由から、アメリカでは独立系運用会社が多く活躍し、投信直販への移行をすることが出来ました。さらに、まずもって投資習慣の基盤が形成されていたこと、投資家のコスト意識が高かったことも、アメリカでの投信直販を推し進める要因となったのです。

また、興味深いことは、日本に比べて販売チャネルそのものが多様であるということです。現在、アメリカではIFAと言われる独立系ファイナンシャルアドバイザーが中心となって、顧客に投資商品の提案を行っています。
一方の日本はどうでしょうか。

 

日本の投信直販が少ない理由

まず、日本と米国を比べた時、少ないのは何も投信直販に限った話ではありません。残念なことに、投資信託自体がいまだに日本において主流ではないのです。しかし、そのような中でも投信直販の割合があまりに少なすぎるとも考えることが出来るでしょう。今回はその原因に迫っていきたいと思います。
そのために、まずは投資信託が日本の異常な投資環境の下で苦難の道をたどってきたことを振り返っていきましょう。

日本において投信直販が開始されたのは1993年とアメリカと比べて20年以上も遅れをとっています。さらに、販売チャネルに至っても、平成初期まで日本の投信は100%証券会社で販売されてきました。また、その運用会社も金融系がほとんどを占めています。つまり、日本の投信運用会社は販売会社が売りやすい商品を販売会社が儲かりやすいように開発することに意味があったと言えます。これが顧客本位の長期投資を妨げた要因の1つでしょう。

また、前回コラムでも述べたように、投信直販に大手も取り組む時期がありましたが、目論見書送付をはじめとする事務コスト等の採算が見合わないことを受け、投信直販からの撤退をしてしまいました。加えて、開始された5年後の98年には銀行などの登録金融機関が窓口販売を開始させたことも、撤退の大きな要因として挙げられます。

さらに、株式市場は超円高・超株安という強い逆風を受け、債券市場に至っても超低金利のあおりを受けて低迷が続いてしまいました。これによって、投資信託に投資を行うこと自体が、当時の日本において価値の高いものではありませんでした。というよりもむしろ、金利の良い郵貯などに預けておいたほうが良策と捉えられていたのです。したがって、日本において投資習慣の基盤は形成されてこなかったのです。

そして他にも、この悪循環に加えて、販売及び商品組成に至っても様々な問題を抱えていました。先ほども述べたように、運用会社は金融系が多く、販社を意識したものになってしまいその結果、投資信託の大量販売・大量解約がなされてしまっていました。そのため、アメリカと異なり日本の投資信託は長期的目線での運用がなされていなかったのです。定期的に投資信託を乗り換えてもらうことで、多くの販売手数料を取っていたのです。

このことから、新しいファンドを時期に合わせてテーマごと作成しては契約してもらい。また、新しいファンドが出来ればそちらを顧客にお勧めする。金融リテラシーの低い日本では、この異常性に気づく人も少なかったことでしょう。これによって、既存のファンドが大きく育ち安定した運用ができるようになることなく、悪い意味での新陳代謝が起こってしまっていたのです。

以下の資料からも分かる通り、残念なことに日本では投資信託にまずもって興味のない人も多い現状です。

日本人の投資信託の非購入理由

投資信託協会「投資信託に関するアンケート調査 報告書」2023年1月
URL:https://www.toushin.or.jp/files/statistics/87/2023011722022_.pdf

では、どのようにしたら「貯蓄から投資へ」のパラダイムシフトを実現させていくことが出来るでしょうか。

 

日本の投信マーケットへの示唆

まずは、日本においても「貯蓄から投資へ」の変容によって、投資習慣の基盤を形成していく必要があります。そのためのNISAやiDeCoの存在は大きいと考えます。アメリカでも、1990年代以降に飛躍的に家計における金融資産の割合が向上したのには、401kの職域型確定拠出年金の開始が大きく関係しています。アメリカに遅れながら、日本も貯蓄から投資へのパラダイムシフトが求められています。

日本とアメリカ、それぞれの家計金融資産の推移

オリックス証券 「日米の家計を比較!アメリカが圧勝なのは、なぜ?」
URL:https://www.orixbank.co.jp/personal/investment/learn/column/special/20201027_5.html

日本で投資習慣の基盤形成の実現には、以下のようなことが必要だと考えられます。
・販売チャネルの充実&ゴールベースでの顧客に寄り添った中長期視点での運用
・金融教育の推進(企業型DCこれを有効活用するように社会人への教育なども)
・運用会社も、販売会社が売りやすい新ファンドの作成に重きを置くのではなく、既存のファンドを育成していくことに重きを置く。これによって、大きな金額を長期で安定した運用が行えるようになる。

 

まとめ

投資信託の中でも直販は、投資家にとって販売手数料が安く済む販売チャネルの1つです。さらに、運用会社と投資家の利害が一致するために、潜在的には長期にわたり人生を資産運用の面から伴走してくれる最も良いパートナーの1つとなり得るわけです。
日本においてもアメリカにならって多様なチャネルでの販売を増やしていけることが出来れば、独立系運用会社が活躍することが出来る機会も増えていき、真の意味での顧客本位の商品設計が活発になっていくことが考えられます。より良い投資信託が提案されるようになるためには、私たち一人ひとりが金融のリテラシーを高め、顧客本位でない営業に流されないこと、突き詰めると、自身で投資商品を決定することが出来る素養を身に着ける努力も大切なのではないでしょうか。

 

参考にしたもの

・金融庁 説明資料 平成29年3月30日
URL:https://www.fsa.go.jp/singi/kakei/siryou/20170330/03.pdf

・杉田浩治 「米国投信をめぐる五つの謎と日本への示唆」
URL:https://www.jsri.or.jp/publish/review/pdf/6005/02.pdf

・大和総研「リテール金融ビジネスのパラダイムシフトとは」2020年11月12日
URL:https://www.dir.co.jp/report/column/20201112_010560.html

・日本証券経済研究所 杉田浩治「発足から満60年を迎える日本の投資信託 その軌跡・現状と今後の課題」 平成23年5月18日
URL:https://www.jsri.or.jp/publish/topics/pdf/1105_01.pdf

・日本証券経済研究所 杉田浩治「投資信託の販売をめぐる世界の動向」平成28年9月8日
URL:https://www.toushin.or.jp/fileadmin/open/kouhou/file/statistics/paper/1609_01%E6%8A%95%E8%B3%87%E4%BF%A1%E8%A8%97%E3%81%AE%E8%B2%A9%E5%A3%B2%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%90%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%8B%95%E5%90%91.pdf

・日本証券経済研究所 杉田浩治 「投資信託の制度・実態の国際比較」平成29年5月25日
URL:https://www.jsri.or.jp/publish/topics/pdf/1705_02.pdf

・日本証券研究所 杉田浩治「米国投信4分の3世紀の歴史から何を学ぶか」平成27年1月19日
URL:https://www.toushin.or.jp/fileadmin/open/kouhou/file/statistics/paper/1501_01

・野村資本市場研究所 野村亜紀子「米国投信手数料体系の多様性について」
URL:http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2006/2006sum14.pdf

・野村総合研究所アメリカ 吉永高士 「『米国投資商品』報告書」 2019年4月
URL:https://www.fsa.go.jp/common/about/research/beikokucyousahoukokusyo.pdf

・マネックス証券「日本では投資信託の手数料が下がっていないって本当?」2009/6/19
URL:https://info.monex.co.jp/lounge/shisan/2009/06/19-021962.html

・finasee 鈴木雅光「なぜ投資信託の販売手数料は金融機関によって違う?その裏側の歴史に迫る」2021/8/17
URL:https://media.finasee.jp/articles/-/10051?page=3

・EL BORDE by Nomura 「資産運用に保守的な日本人―約20年間で資産を3倍以上に増やした米国人から学ぶこと」2021年4月8日
URL:https://www.nomura.co.jp/el_borde/real80s/0057/

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