IPOクロスオーバー投資とは

みなさまこんにちは!
コラムでは、おなじみとなって参りました、ヘッジファンドのスタートアップであるKxShareの大村です!
今回のテーマは、KxShare株式会社の第一号ファンドの運用戦略でもあります「IPOクロスオーバー」についてになります。
「IPOクロスオーバー」とは一体どのようなものなのでしょうか?
また、クロスオーバー投資の普及する海外において、どのような存在なのかについて今回のコラムを通して見ていくことにしましょう。
IPOクロスオーバーとは?
まずは、IPOクロスオーバーの意味から抑えていくことにしましょう。分かりやすいように、「IPO」と「クロスオーバー」を分けて考えていきます。「IPO」はInitial Public Offeringの略称で、新規株式公開のことです。分かりやすく言えば、一般的な上場のことです。
※さらに、IPOに関して詳しくなりたい方は、弊社の新星!東條が誰にでも分かりやすく解説していますのでそちらをご覧ください。(「投資家として知っておきたい、IPO投資について」)
次に、「クロスオーバー」とはどのような意味なのでしょうか?
ここで気を付けていただきたいのは、“クロスオーバー”とそのまま検索しても上の方に出てくるのは車のことばかりということです。車好きな方であれば、ハリアーなどを連想される方も多いかと思います。
ですが、クロスオーバーのもともとの意味は、“何かの垣根を飛び越える”ということです。この境界線を飛び越えることで、今まで交じり合わずに棲み分けがされていたものが交じり合ったり、共存したりするようになるのです。したがって、投資の世界における「IPOクロスオーバー」とは、“上場と非上場(未上場)との垣根を飛び越えて投資をする”ことになります。
例えば、上場株を主戦場とするミューチュアルファンドやヘッジファンドが非上場に投資をする場合、クロスオーバー投資を行っていると言えます。
また、非上場株を主戦場とするVCやPEが投資先の上場後も株を持ち続けたり、上場株に投資をしたりする場合もまた、クロスオーバー投資を行っていると言えます。
しかし、あくまでミューチュアルファンドやヘッジファンドの主戦場は上場株であり、VCやPEの主戦場は非上場株です。SEC(米国証券取引員会)によれば、ミューチュアルファンドの非上場への出資の上限は純資産の15%までと規定がなされています。
その実、非上場株といえどそのほとんどのステージはレイタ―でしょう。
2009年T.ロウ・プライスが運用するニューホライズンファンドによる上場前のツイッターへの投資を皮切りに、タイガーグローバルがフェイスブックへ投資したり、フィディリティがリードインベスターを務めたりと…
そして今、クロスオーバー投資は年々増加傾向にあります。
URL:https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2022/data/rev22j11.pdf
※リンク先のグラフからも分かる通り、クロスオーバー投資家の存在感が増してきている。
クロスオーバーが注目を集める理由
では、なぜ今こんなにもクロスオーバー投資が盛り上がっているのでしょうか。
《上場市場から非上場市場へ》
1つは、スタートアップが非上場であっても大きな資金を調達することが出来るようになり、IPOまでの期間が長期化してきていることが要因として挙げられます。一昨年まで、米国を中心にプライベートマーケットは異常なほどの盛り上がりを見せていました。例えば、米巨大テック企業による高額なM&Aの実行やソフトバンクビジョンファンドの台頭などにより、スタートアップのバリュエーション自体が高額なものとなっていたのです。
これにより、非上場であっても多額の資金を集め、上場をせずとも企業を成熟した段階に持っていくことが可能になりました。したがって、上場市場の投資だけでは企業の重要な高成長段階での投資機会を逃してしまうことになるのです。このことから、上場株を主戦場としていたヘッジファンドなども非上場市場の領域に足を踏み入れるようになったと考えられます。
さらに、イノベーションが起きるのは非上場企業の場合が多く、業界や市場における企業の競争力を正確に知るためには、上場企業だけでなく非上場企業も把握しておく必要があります。このことも、上場市場を主戦場とするヘッジファンドやミューチュアルファンドが非上場に介入しやすくなった一要因ではないでしょうか。
《非上場市場から上場市場へ》
一方で、なぜ非上場市場を主戦場とするVCは反対に上場市場に介入してきているのでしょうか。それは、投資リターンを最大化させるためにあります。簡単に言えば、上場後も伴走することで企業の持続的な成長を促します。上場後も、成長していく可能性がある企業の株を上場時点で手放してしまえば、より大きなキャピタルゲインを得られなくなってしまいます。逆に言えば、成長企業の株を上場時に手放してしまうことは、得られるはずだった利益をみすみす逃してしまう損失になりかねないということです。
以上の理由から、米国を中心として《上場市場から非上場市場へ》と《非上場市場から上場市場へ》この両方のIPOクロスオーバーが注目を集めているのです。
日本と海外の差
ここまで、クロスオーバー投資の海外での盛り上がりを見てきましたが、日本ではあまりなじみのないIPOクロスオーバー。皆さんの中でも聞いたことがある人はごくごく少数ではないでしょうか。では、日本におけるIPOクロスオーバーは、ここから米国同様に盛り上がっていくのでしょうか…?
結論から言って、日本においても「IPOクロスオーバー」がリスクマネーの供給源として関心自体は高まっています。しかしながら、日本経済新聞には以下のような記事が公開されていましたのでご参考までに引用しておきます。
『日本の投資信託は時価評価に関する規制が厳しく、未上場株式には事実上、投資できない。このため、有望スタートアップに自国の個人マネーも入ってこない。ティー・ロウ・プライスで日本株運用を担当するアーシバルド・シガネール氏は「ルールが変わらない限り、日本の未上場株への投資は大きくは増えない」とみている。』
URL:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74576620W1A800C2TL5000/
一方で、GPIFなどのアセットオーナーの運用資金が、政府発のスタートアップ5カ年計画の後押しもあり、非上場企業へのリスクマネーとして流入しつつあります。(実際には、5カ年計画以前から)これら、アセットオーナーは運用している資金が莫大であるが為に、その純資産の数パーセントでも供給されれば非常に大きな影響となり得ます。
いずれにせよ、顧客のニーズが多様化・個別化を進める中で、現在はニッチな投資家のニーズに応えるクロスオーバー戦略が、将来的には新ジャンルとして主流となるかもしれません。日本のタイガー・グローバル・マネジメント(米国クロスオーバーのヘッジファンド)になり得るKxShareから引き続き目が離せません。
終わりに
IPOクロスオーバー投資による、VCに次ぐ新たなリスクマネーの供給者の出現は、ユニコーン企業の創出、ひいてはスタートアップ界全体においても有益なものとなることでしょう。しかし一方で、VCからしてみればVC間だけでなく今まで棲み分けがなされていた外敵にさらされることになります。一部米国ではその傾向があるように、富めるVCが増々富み、投資をさせてもらえないVCは淘汰されていく。この傾向は、より一層加速していきそうです。まさに、VCのマタイ効果です。
とはいえ、起業家からすれば、ようやくお金の出し手を主導権を持って決めていくことができます。自身の持続的な企業価値向上の指針と照らし合わせリスクマネーの供給者を自らで選別していく必要が出てきますね。
条件が同じならば、最終的には、より秀逸なエクイティストーリーを語ったり、キャピタリスト個人の人柄を売ったりすることが決め手になって、魅力的なスタートアップへの投資の可否が決定するかもしれません。
富めるものが増々富み、そうでないものは淘汰されていく。良くも悪くも、資本主義にとって、これほど健全なものはないでしょう。
現状の足元は米の利上げやウクライナ戦争による社会不安を原因として、市場全体が暗くなってしまっていますが、今後のプライベート市場がより一層明るくなることを祈っています。
最後までお読みいただきありがとうございました!
「IPOクロスオーバー」について理解を深めることが出来たでしょうか?
また、その秘めたる可能性にワクワクできましたでしょうか?
何を隠そう、私たちKxShareの第一号ファンドがとっている戦略こそ、日本ではまだ数少ない「IPOクロスオーバー戦略」なのです!!!
そちらも要チェック!!
【参考資料】
・野村資本市場研究所 竹下智 「上場・非上場の垣根を飛び越えるクロスオーバー投資 ―米国ミューチュアルファンドによるプレIPO株式投資の現状―」
URL:http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2020/2020win09.pdf
・野村総合研究所 金融イノベーション研究部 佐藤広大「米国私募市場の活性化と我が国におけるリスクマネー供給をめぐる議論への示唆」
URL:https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/kinyu_itf/2020/12/itf_202012_5.pdf?la=ja-JP&hash=24C61127DF001EF1FCE9DFA5C713C83A98B31A92
・Russell Investments by Hiroyuki Obara 「ヘッジファンドによるクロスオーバー投資」
URL:https://russellinvestments.com/jp/blog/hedge-fund-cross-over-investing-07
・T.Rowe Price 2022/7「プライベート・エクイティへの投資機会」
URL:https://www.troweprice.com/financial-intermediary/jp/ja/thinking/articles/2022/q3/finding-opportunity-in-private-investments-apac.html
・きらぼしコンサルティング 2022年3月号「変化する米国ベンチャー投資業界」シリコンバレーレポート
URL:https://www.kiraboshi-consul.co.jp/column/2203
・日本経済新聞「クロスオーバーファンド」2021/8/9
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74576620W1A800C2TL5000/
――――――――――――――――――――――――
我々KxShareは投信直販への参入を目指して活動しています。弊社への参画やご協力、提携等のお問い合わせもお待ちしております。
KxShareのヘッジファンド事業についての詳細は下記リンクをご参照ください。